
「風をつむぐ少年」 ポール・フライシュマン あすなろ書房 1999
2013年06月29日 13:52『風をつむぐ少年』は、『種をまく人』の作者で有名なポール・フライシュマンの作品であり、交通事故をきっかけに旅に出ることになった少年の姿を描いた物語だ。主人公は16歳の少年、ブレント。物語は、父親の仕事の都合で転校したブレントが、新しくできた友達からパーティーに誘われることから始まる。新しい土地で“うまく”やっていこうと考えていたブレントだが、そのパーティーで恥をかかされ、さらに、気になっていた女の子にふられてしまう。自暴自棄になったブレントは自殺を考える。酔ったままで車に乗り込み、対向車線の車と事故を起こすのだが、その事故で死んだのはブレント本人ではなく、対向車線を走っていた車を運転していた少女リーだった。保護観察になったブレントは、リーの母親と面会するのだが、リーの母親はブレントを責めなかった。代わりに“アメリカ大陸の4隅に風車をおくこと”を約束させたのだ。最初はその意味がよく分からないままアメリカ横断の旅に出たブラントだったが、登っては沈んでいく太陽を眺め、人と出会い、風車を立てていくなかで自分を見つめ直し、周りの目ばかり気にしていた過去の自分と決別していく。この物語の面白いところは、ブレントが立てた4つの風車が、それを見た四人の心を動かすシーンも描かれている点だ。恋の予感を感じた少女、職を失い傷ついた男性、バイオリンの練習が嫌いな男の子、孫に生きる喜びを教えようとする老婆。別々の場所に立つ4つの風車は、見た人によって違うメッセージを放つ。一人の少女の死から始まった旅が多くの人の心を動かしていくこの作品は、登場人物だけでなく、読者の心にも変化をもたらすだろう。私自身、物語を読み終わった後には、何か新しいことに挑戦してみようかと考えたほどだ。もっと多くの人にこの作品を読んでもらい、ブレントの旅を通して、それぞれが自分なりにメッセージを受け取ってくれればと思う。 (外間香織)
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