旅に関する本をゼミ生が自ら選び、

書評を書いていきます。


書評

2013年06月19日 11:01

「15歳のお遍路~元不登校児が歩いた四国八十八カ所~」 岡田光永 廣済出版 2012

 本屋をうろついていたとき、背表紙の文字に目を奪われた。お遍路とは、簡単に言えば“四国にある88カ所の礼所(お寺)を巡ること”であり、巡礼が終わると結願すると言われているが、その道は険しく、容易にできることではない。それをたった15歳の子が!しかも元不登校児!その不釣り合いな組み合わせに驚いたと同時に、この本を読みたいと思った。 夏休みを目前に控えたある日、著者である岡田氏の妹、空海(くみ)ちゃんの心臓に穴が開いていることが判明する。「空海の心臓が治るようにお祈りしてきたら?」という母親の言葉に背中を押され、お遍路に挑戦することを決意した岡田氏は15キロのザックを背負い1400キロの旅に出る。 お遍路さんは、その道中で地元の人々から“お接待”を受ける。お接待の内容はとても幅広く、食べ物や飲み物、宿の提供、ときには現金を渡されることもあり、それらはすべて無償で行われるのだ。お遍路中多くの方からお接待を受けていくなかで、自分は一人で生きているのではなく、たくさんの人に助けられているのだと気付いた岡田氏は、その一瞬の出会いのなかで自分に何ができるのか考えるようになる。この本の面白いところは、読み進めていくうちに、一人の少年が成長していく過程を強く感じられるところだ。もともと妹のために始めたお遍路。それがいつしか、自分にお接待を施してくれた人たちや、心が折れそうになったときに声をかけてくれた他のお遍路さんたち皆の“願い”を運ぶ旅へと変わっていく。自分にとって、家族や友達がどれだけ大切な存在か考えさせられる1冊となった。(外間香織)

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2013年06月14日 12:40

「架空列車」 岡本学 講談社 2012

 この本は、会社を辞め無職になった主人公が、引っ越し先で架空の鉄道を走らせる物語。食事をとることも忘れて地図を一日中眺め、その地図に路線を書き込み、実際に自転車で運行するというこの本の大部分は私が鉄道にそこまで興味がないことや地図が読めないこともあったせいか、単調的に感じられ面白くなかった。第二部で話が一転するのだが取ってつけた内容のように思えてしまい、筆者の伝えたいことを感じ取ることが私には難しかった。自分の興味があることへ対する徹底さがみられたので、列車好きな人や理系男子には合う本かもしれない。(宇野祥子)

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2013年05月23日 17:39

「深夜特急1.香港・マカオ」 沢木耕太郎 新潮文庫 1994

 深夜特急シリーズは、バックパッカーのバイブル的存在として有名な一冊である。著者の沢木耕太郎氏は、ある日ふとインドのデリーからイギリスのロンドンまでバスで旅することを思い立ち、早速行動に移す。仕事を辞め、家中のお金をかき集め、スタート地点であるインドのデリーへの航空券を買いに行くのだが、そこでインドまでの航空券のストップオーバーとして香港とバンコクに立ち寄ることを決める。『深夜特急1.香港・マカオ』では、日本を飛び出し、インドへ向かうまでの出来ごとに焦点を当てて書かれている。この本は、旅に必要なものがなんなのか私に指南する一冊となった。旅に必要なもの、それは、あらゆる情報を網羅したガイドブックではなく、完璧な計画でもない。 “旅をする力”こそ、本当に必要なのだ。沢木氏は旅行というよりはむしろ、放浪と表現する方がしっくりくるような自身の旅の経験を通して、異国でのコミュニケーションの取り方やカルチャーショックを楽しむという発想を私に教えてくれた。そしてそれらこそが、“旅する力”そのものなのだと感じた。 (外間香織)

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2013年05月23日 17:37

「夜のピクニック」 恩田陸 新潮文庫 2006

 『夜のピクニック』は、全校生徒が80㎞の道のりをただひたすら歩き続ける行事、”歩行祭”から物語が始まる、青春小説。歩行祭の前半;団体歩行では、それぞれの登場人物の性格、思い、賭け、おまじないの意味などが歩き続ける間にいろいろな形で表現されており、後半;自由歩行では、友情の大切さ、賭けの結末と合わせて、主人公、貴子と融の関係の変化などが主に描かれている。登場人物それぞれの、歩行祭を通して成長していく過程が面白い。また、人間模様だけでなく、歩くことで発見できる風景の描写が多々含まれており、”ただ歩くこと”も旅の一つであると初めて理解できた作品であった。 (豊見山佐妃)

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2013年05月23日 17:34

「貧困旅行記」 つげ義春 株式会社晶文社 1991

 貧困旅行記は旅好きの筆者による紀行文である。目次ごとに旅は異なっており、中でも一番おもしろかったのが、行った先で出会った女性と結婚し、そこに住むつもりでしていた旅だ。住み着く方法もさることながら、行って帰ってくる旅行しか頭になかった私には斬新的で面白かった。30年も前の旅もあり、宿の金額等は当時の相場が分からず、共感できる部分が少なく残念だったが家族とのやり取りは今と同じでほっこりする本だった。 (宇野祥子)

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2013年05月23日 17:23

「夢より短い旅の果て」 柴田よしき 角川書店 2012

 『夢より短い旅の果て』は、8つの異なる路線での旅を通じて体験した出来事や、一つ一つの路線での“人との出会い”を中心に、主人公の香澄が、ある目的のために鉄道での旅を続ける話として物語は展開していく。自然や風景に対するこまかな表現とともに、登場人物それぞれの想いが、鉄道の旅を通して全面的に表されており、まるで同じ空間に居て、同じように旅の空気を感じる事が出来るような、印象深い描法である。さらに、「鉄道の旅」というひとつの大きなテーマの中で繰り広げられるこの物語は、時間や雑事に追われて日々生活する現代人にとって忘れがちな“息抜き”をする機会を与えてくれるような本であり、自分の人生に、時間に“ゆとり”を持つことで、今、この時を大切にしてほしいという筆者の想いが込められた一冊であるといえる。 (石川愛梨)

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